2014/07
産業遺産を訪ねて君川 治


【産業遺産を訪ねて プロローグ】


「九州・山口の近代化産業遺産群」の一つ、三池炭鉱関連遺産には宮原坑跡、宮浦坑跡、万田坑跡、三川坑跡などがある。写真はその一つ、宮浦坑跡の石炭記念公園
 “何事も 古き世のみぞ したわしき”
 吉田兼好の徒然草にある通り、我々は歴史のある過去のものに郷愁を覚える。ヨーロッパに行くと歴史ある都市の旧市街が大切に保存されている。紀元前のギリシャ・ローマ時代の遺跡も確りと保存されている。博物館や美術館も多く、歴史の素晴らしさに触れることができる。
 一方、新しさを求めて過去に拘泥しないような動きもある。東京オリンピックの国立競技場は日本で初めて開催された国際イベント会場として、聖火台も含め記念すべき建造物であり文化遺産でもある。これを簡単に壊して新国立競技場に衣替えしようとする計画には納得できない。石の文化と木の文化の違いはあるが、我が国はヨーロッパの文化遺産に対する心がけを学ぶ必要があると思う。


日本の文化財
 我が国は中国やインドなど四大文明圏に比べれば歴史は浅いものの、歴史上の多くの文化財がある。
 文化財を指定・登録・管理する文化庁は文化財を6分野に分類している。
    1.有形文化財  2.無形文化財  3.民俗文化財、
    4.記念物    5.文化的景観、 6.伝統的建造物群
 これらの中で国宝が約千件、重要文化財が約1万2千件指定を受けている。古い時代のものが多い。
 文化財の保存や古きものの補修・保全は多くの費用を要するにもかかわらず、我々は何故古いものを保存するのだろうか。文化庁はホームページで次のように述べている。
 ――文化財は,我が国の長い歴史の中で生まれ,育まれ,今日の世代に守り伝えられてきた貴重な国民的財産です。これは,我が国の歴史,文化等の正しい理解のために欠くことのできないものであると同時に,将来の文化の向上発展の基礎をなすものです。・・・・国と地方公共団体,所有者,国民が一体となって,文化財を保存して次世代に継承することはもとより,積極的に公開・活用を行うように努めています。 ――r
 文化財には我々民俗の歴史が刻まれており、アジアの近隣諸国との交流や遠くヨーロッパとの交易、政治や経済、信仰や衣食住などの生活様式などを教えてくれる。


産業遺産
 我が国は明治維新後の近代化政策により、鉄道・港湾・橋梁・上下水道などのインフラ設備や鉄鋼・鉱山・製糸・造船・機械工業などの産業設備が整備された。その様子は2005年3月に開始した本欄「日本科学技術の旅」で紹介したが、100年以上を経過して設備の改廃が進んでいる。その歴史的価値のある設備が、戦後の急速な技術進展と経済の拡大により失われつつある。
 1993年に文化庁は、幕末以降の日本の近代化に貢献した重要建造物を「近代化遺産」とする登録制度を新設し、10月20日を近代化遺産の日と定めて全国一斉に公開活動を進めている。10月20日は旧工部省が設立された明治3年10月20日に因んだものである。
 さらに2007年には経済産業省も、近代化産業遺産を認定して保全作業を始めた。最初に「近代化産業遺産群33」が選定され、2009年に「近代化産業遺産群続33」が追加された。
 その他にも多くの団体が近代化遺産を認定しており、その概要は次の通りである。
    近代化遺産  ・・・・・・文化庁
    近代化産業遺産・・・・・・経済産業省
    土木遺産   ・・・・・・土木学会
    器械遺産   ・・・・・・日本機械学会
    でんきの礎  ・・・・・・電気学会
    化学遺産   ・・・・・・日本化学会
    未来技術遺産 ・・・・・・国立科学博物館
 この他全国各地には企業博物館があり、ここでも我が国近代化の足取りを見ることができる。


世界遺産
 2007年に「石見銀山とその文化的景観」が世界遺産に登録され、2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」がユネスコ世界遺産に登録された。さらに世界遺産暫定リストに記載されている産業遺産としては「九州・山口の近代化産業遺産群」、「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」がある。産業遺産が重視される傾向にあるようだ。
 これから始める産業遺産シリーズでは、従来と同様に先ず現地を視察し、その産業遺産が果たした歴史的役割、技術的なバックグランド、推進した人達について調べたい。
 このシリーズを企画した結果、北海道から九州まで、また全国を行脚出来るのが楽しみである。


君川 治
1937年生まれ。2003年に電機会社サラリーマンを卒業。技術士(電気・電子部門)




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